VLBI観測による超大容量観測データの国際共有


国土交通省 国土地理院では、VLBIによって取得される大容量観測データの国際共有にSINET3を活用しています。測地VLBIにおけるネットワーク重要性と現在の事業活動について、国土交通省 国土地理院 測地部 宇宙測地課 超長基線係長 栗原 忍氏にお話を伺いました。
(インタビュー実施: 2009年7月9日)


まず、国土地理院におけるVLBIの目的について教えて下さい。


栗原氏: ご承知の通り、国土地理院は測量と地図の作成を担う国の機関です。昔は紙の地図が主体でしたが、最近では様々な情報を電子化することにより、国民生活へのさらなる活用を図っています。2007年には、そのための法律として、地理空間情報活用推進基本法も施行されました。VLBIは、こうした測量や地図を作成する活動の中でも、もっとも最初のフェーズにあたります。その具体的な目的としては、「1.プレート運動を監視する」「2.世界と地球の位置を知る」「3.地球の姿勢を図る」「4.国際協力を支える」の4点が挙げられます。

4つの目的の内容についてご紹介頂けますか。


栗原氏: まず1番目のプレート運動観測ですが、地球表面はいくつかのプレートに分かれており、それぞれに運動をしています。たとえば、太平洋プレートは、日本海溝付近で北アメリカ(オホーツク)プレートを引きずりながらその下にもぐりこんでおり、いわゆるプレート境界型地震の原因になっています。VLBIによるプレート運動の観測は、こうした地震の調査・予測の基礎となるのです。プレートの動きは年間数センチ程度と極めて小さなものですが、VLBIを利用すればミリメートル精度で正確に計測するこ世界の主なVLBI観測局とができます。ちなみに、日本・ハワイ間の距離は毎年約6cmずつ短くなっていますが、こうしたことが分かったのもVLBI観測の成果です。
 2番目は、世界の経緯度や測量の基準を定めるためのものです。ここではVLBIのほかに、SLR(衛星レーザー測距)やGPSなどの技術も用います。SLRはミラーボールのような人工衛星にレーザー光線を当てて距離を測る技術で、これを繰り返すと地球重心の位置が求められます。さらにVLBIで観測した距離の情報などを加え、世界中のGPS観測局に対してx, y, zの座標値を与えます。さらに、これらのデータを集約して構築したのがITRF(国際地球基準座標系)です。ITRFはVLBIのような科学的観測によって実現された全世界共通で利用できる測地基準系で、「世界測地系」と呼ばれます。日本では、以前は明治時代の技術を元に作られた測地基準系を使っていたのですが、現在ではITRFを基にした世界測地系へ変更されています。
e-VLBIによるUT1データ転送 3番目の地球姿勢観測は、地球の自転や自転軸の振る舞いを測定するものです。地球の自転軸はずっと同じ位置で静止しているのではなく、直径10m程度の円を描いており、「極運動」と呼ばれます。宇宙空間のロケットや人工衛星などの制御には、そのときの地球の正確な姿勢を知る必要があります。以前NASAが探査機を火星に着陸させた際にも、つくばのVLBI観測データが役立てられました。また、自転の速さもぴったり24時間というわけではなく、1周するのに平均約2/1000秒ほど長く掛かっており、それも時々刻々と変化しています。日常使われている時刻は原子時計に基づくものですが、地球の自転に基づく時刻(UT1)と原子時計に基づく時刻(UTC)との差を補正しないと、遠い未来には、例えば正午になっても太陽が東の空にあるといった現象が生じてしまいます。これを補正するために、VLBI観測で測定された正確な地球自転をもとに、いわゆる「うるう秒」が挿入されます。
 最後の国際協力ですが、測地VLBIにおいては、世界中の国や機関との連携が非常に重要になります。そこで国土地理院でも、1999年に設立されたIVS(国際VLBI事業)に参画し、中核機関として様々な活動を行っています。

VLBI観測ではネットワークが果たす役割も大きいとのことですが。


栗原氏: そうですね。以前はデータ記録媒体に磁気テープを使用しており、相関処理を行うためには記録媒体を物理的に輸送する必要がありました。ドイツから送られてくる磁気テープを少しでも早く受け取るために、国土地理院の職員が成田空港で待ち構えていたこともあります(笑)。しかし、ネットワークを利用したVLBI「e-VLBI」が実用化されたことで、記録媒体をわざわざ輸送する必要がなくなりました。VLBIの観測データは非常に大容量であり、週1回行われる24時間観測では、観測1回あたりのデータ量が約1TBにも達します。こうした大容量データを短時間でやりとりするためには、高速なネットワークが欠かせません。

そこをSINET3が支えているというわけですね。


世界のe-VLBIネットワーク栗原氏: はい。日本におけるe-VLBIの歴史を振り返ると、1990年代に、通信総合研究所(現 情報通信研究機構, NICT)がATMの専用回線を利用したデータ転送で測地VLBI実験を実施しました。国土地理院では、観測装置の制御や監視のために、ISDNやIP-VPNを利用してきましたが、128Kbps程度の通信速度では1TBを超える観測データを送ることは現実的ではありません。2004年にGEMNet2やSuper-SINETを利用し、本格的に海外への観測データ転送を開始しました。さらに2008年からは、SINET3の1Gbps回線をe-VLBIを支える基幹ネットワークとして活用し、ドイツ、スウェーデン、ノルウェー、アメリカなど、世界各地の観測局とネットワークを結んでいます。

SINET3を利用するメリットとしては、どのような点が挙げられますか。


栗原: 栗原: 先に述べた大容量データが転送できるということ、それと、よりリアルタイムに近い観測が可能になった点ですね。たとえば、2008年に、国土地理院、NICT、オンサラ観測所(スウェーデン)、メッツァホビ電波観測所(フィンランド)の4機関共同で行った実験では、1時間の観測後、3分45秒で地球自転の速さを表すdUT1の値を算出しました。これは、おそらく世界最速だと思われます。さらに、つくばではBKG(ドイツ連邦地図測量庁)のWettzell観測局と毎週末ごとに地球自転の速さを測る観測を行っていますが、土日の観測データをリアルタイム転送して観測中にデータ処理を実施することで、観測終了後数分以内に観測結果を算出することができます。磁気テープや磁気ディスクをいちいち空輸していたのでは、とてもこうはいきません。

SINET3をはじめとする世界中の学術ネットワークが、e-VLBIの発展に大きく寄与しているというわけですね。


栗原: その通りです。VLBIにおいて、ネットワークの帯域はいくらあっても困ることはありません。帯域が広くなれば、それだけ観測の精度やスピードを高めることができます。現在も600Mbpsの実効転送速度を確保できており、1TBのデータも数時間で転送することが可能です。今後、サンプリング装置の高性能化などに伴って、どんどんデータ量は増えていきますので、SINETの進化にも大いに期待していますね。我々も国際的なVLBI観測網における日本のプレゼンスをさらに高めるべく、今後も努力していきたいと考えています。

ありがとうございました。